幻騎士×γ。ジッリョネロ時代がラブ&甘だったら…という。
絵茶でのお話から派生した小話です。



幻γ小話





 ぎしり。
 男の体重を受け、寝台が乾いた軋みを上げる。
 慣れた気配とその音に、γはうっすらと目を開いた。
「……何だ……?」
 眠りを引きずる掠れた声で、小さくそう問いかけて。
 寝台に乗り上げた男はそれに答えるわけでもなく、γを覆う寝具の上掛けをゆっくりと持ち上げ、その眠りの温度を保つ空間に身を滑り込ませた。
「……寒ぃ」
 横たわるγは眠る時の常で何も身に着けてはおらず、上掛けを剥がされてはさすがに肌寒い。肌に直に触れた空気に、男はかすかに身震いをする。
 その声を聞きながら、黒髪の男はγの首の下と腰とにそっと腕を回した。横向きに眠る彼と向かい合うように横たわり、上掛けを掛け直してから、そっとその頬をγの頬へと触れさせる。東洋系の血がもたらす肌のなめらかさが、触れさせられたγにはひどく心地良い。そのまま頬を滑らせ唇と鼻先に軽い接吻を落とし、男は両腕にぐっと力を込めた。
 抱え込んだγの身体、その額の生え際に鼻先を埋めるようにして、男は大きく息を吸い込む。男の息が触れ、額がひどくくすぐったかった。
「……暑ぃぞ、幻騎士」
 呟く声も気にせぬかのように、幻騎士は抱き締めた腕をゆるめる気配もない。力強いその腕は、決して離しはしないと言いたげにγに絡み付いたままだ。

 ――何でこいつ、当然のようにオレのベッドに入って来てんだ?

 そう思ってはみても、このしっかりと絡み付いた腕がほどけるわけでもなく。γはただその中に閉じ込められたままだ。
「熱い。暑苦しいだろーが」
 ぶつぶつと文句を言うのにも、答えは返らない。
 そう。暑いというよりむしろ、熱いのだ。幻騎士の体温は、γよりもいくぶん高いのが常だ。筋肉の質量の違いによるものか。見た目の冷ややかさとは裏腹に、その身体はいつでも、放熱するかのように高い温度を保っている。触れず、傍にいるだけでも、その存在を感じ取る事ができるほどに。
 その熱い身体に抱え込まれれば、密着したところから熱が互いに伝わっていく。
 がっしりと抱え込むその腕の強さに、γがかすかに身じろぎすると。
「……疲れた」
 吐息のようなかすかな呟きが、額のあたりに落とされる。
 聞き間違いかと耳を疑う、めったに聞けない幻騎士の弱音だ。この男がそんな言葉を吐くほどであれば、それはよほど疲れる何かがあったのであろう。そう、思うともなしに感じ取ると、γの心の奥深く、柔らかな場所が我知らず疼いた。
 文句を言う気も霧散するように消え失せたγが、身体から力を抜く。静かに身を委ねてしまえば、服越しに感じる幻騎士の体温はひどく心地良かった。
 昼に着ているものとは違い、ゆったりとした夜着をまとった幻騎士のはだけた胸元から、熱と共に肌の香りが立ちのぼる。
 暑苦しい、などと文句を言いはしたものの。

 ――すげぇ、気持ち良い……

 布越しに滲む体温、わずかに触れる素肌、鼻をくすぐる幻騎士の匂い。どれもが、ひどく心地良くγを満たす。
「仕方、ねーな……」
 不承不承を装った呟きは、柔らかな眠りの色を帯びている。互いの存在が、軽く性的な熱を身内にざわめかせてはいるものの、それを凌ぐ心地良く安らかな眠気が身体と意識を覆っていた。
 元来、γは触り心地の良いもの、温かなものに弱い。
 匣兵器である狐達を匣から出している事が多いのも、懐いているからという理由からだけではなく。あの毛並みの手触り、温かさが愛おしいからだ。
 そして、同じように幻騎士の体温も。
 肌の、なめらかさも。
 心地良く……そして、愛おしい。
 そんな温かさに抱き込まれながら、γは鼻先にある幻騎士の喉元で大きく息を吸い込んだ。
 幻騎士の匂いと共に、不思議な安堵感が身体に満ちる。満ちたそれに引き込まれるように、とろり、眠りの淵へと意識が沈み込んでいき。
 す、と寝息が零れ落ちる。
 完全に眠り込んだγの身体を抱き締め直し、幻騎士はかすかに吐息をついた。柔らかな金の髪が鼻先をくすぐるのが、ひどくこそばゆい。けれど、身を離す気になど到底ならなくて。
 腕の中、半ば強引に抱え込んだその体温が、心地良く幻騎士の身体と心を満たしている。
 てのひらに触れる素肌の感触、夜着越しに感じる肉体の熱さ、鼓動に、不埒な思いが刺激はされるのだが。今夜は、それ以上に安らかな心地良さがある。
 眠るγの腕が、幻騎士の背にゆるりと回された。何かを探すように数度その背を行き来し、そのままゆるやかに夜着を握り込む。
 どこかいとけないようなその仕草に気付き、幻騎士はふと笑みを零し。
 目の前にある形の良い額へと唇を当て、鼻を埋めた柔らかな髪の匂いを吸い込む。
 腕の中には、静かに眠る愛しい体温。
 それにもうひとつ、接吻を落とし。
 疲れなど、この温かさの前では全て消え失せると、自らも眠りに引き込まれながら、幻騎士はとろりとその心地良さに酔っていた。


20/SEP/2008 了





γアニキをギューッとしてる幻ちゃんが書きたかったのでした。
ジッリョ時代がこんな風に甘ったるかったら
その後の幻ちゃんの裏切りとγちゃんのやさぐれがますます際立って
それも良いなあと思うのであります。



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