クーデターよりも前の家光×ザンザスです。
普段のうちのサイトの若家光と子ザンザスな二人とは
別次元の、ある種パラレル的な話であります。
多分、普段のうちの二人は肉体関係にならないと思うので。
多分ね。

そして、ぬるいとは言いつつもやる事やってますので
*この先の文章は18歳未満の方は閲覧をご遠慮下さい。*
よろしくお願い致します。


↓18歳以上で、家光×ザンザス(不倫)でも大丈夫な方のみ、スクロールなさって下さい。↓




























Solo tu






 山間の、静かというよりは寂れているという印象の場所にその宿はあった。交通機関ははるか山のふもとに、小さな駅がひとつ。日に何本列車が来るのか、と問いたくなるような駅だ。そこから車で延々と山の奥へ分け入れば、その温泉宿が現れる。一見、質素で鄙びた旅館に見えるが、本当のところは違う。人目を忍びたい人間達が憩いに訪れる、ここはそういう場所だった。政治家、俳優、財界人、或いは闇に属する稼業の。
「どーだよ」
「……古くせぇ」
「そこがいーんだろ」
「知るかよ」
 隣に立って唇を尖らせるザンザスに笑い、家光は手を伸ばした。指先ですくい上げるように、ザンザスの手を握りしめる。
「……ん、だよ……」
 瞬時にその手が緊張し強ばるのを感じて、家光は目を細めた。その顔をまともに見られないようで、ザンザスは頬に朱を散らして落ち着きなく視線を泳がせる。
 半年ぶりだ。顔を合わせるのは。
 門外顧問として忙しく、家庭も持っている家光と、すっかり九代目の息子としての外交的な用事が増えたザンザスとでは、昔のようにボンゴレ屋敷で顔を合わせる事さえ難しい。だから今回はザンザスが、バカンスと言う名の自由時間を作り、こっそりと日本まで会いに来たのだ。日本を離れられない用事を抱えた家光に会う、その為だけに。本来ならば中継地点になるような国で会う方が、互いの時間も楽だったはずなのだが。わざわざ時間を作って会いに来たその気持ちがいじらしくもあり、家光は握った手に力を込めた。
「な、んだよ家光」
「んー?手、少しでかくなったか」
「知らねぇよ」
「背も、伸びたか」
「……当たり前だ。半年だぞ」
「だな」
「半年だ」
 かすかな震えを帯びたその声が、会いたくてたまらなかったのだと家光に教えていた。
「うん。……会いたかった、ザンザス」
 そっと囁いて唇を寄せれば、オレもだという呟きはひどく切ない響きを持って、直接に唇に伝えられた。





 案内されて入った部屋は程々に広く、畳の真新しい香りが心地良い。大浴場の他にも、部屋にしつらえられた小さな露天風呂。至れり尽くせりとはこの事だろう。
 荷物を置いたザンザスに、家光が声をかける。
「移動が長くて疲れてるだろ。ここは温泉が良いんだぞぅ、入って来いよ」
 そう促され、ザンザスはこくりと頷いた。家光に手渡された浴衣を手に、じっと考え込むと。
「どうした。入り方はわかるだろ?浴衣の着方も、前に教えたな?」
「わかってる」
 答え、けれど動こうとせずにザンザスが家光の顔を見上げる。
「家光は」
 一緒に行かないのかとそう問えば、男は肩をすくめて答えを返す。
「オレは後で。先入っといで。広いから気持ち良いぞ」
「わかった」
 こくりと頷き、ザンザスは浴衣とタオルを手に、一人おとなしく大浴場へと向かったのだった。





 温泉が良い、という家光の言葉通り、そのお湯はするすると肌に心地良く、身体を芯の芯からしっかりと温めてくれるものだった。湯の温度は常のザンザスにしてみればやや熱過ぎるほどだったが、家光に教えられて日本の風呂が熱めなのは知っていた。何度かは、日本式の風呂というものを試した事もあるのだ。無論、家光と一緒に。だからこのくらい、驚くほどの事ではない。露天風呂から眺める山々も美しく、自分の国とはまったく違うその景色に、何とはなしに感慨深くなったりもしていたのだが。
 だが、しかし。
 ザンザスが温泉から上がって部屋に戻ると、今度は家光が『じゃあちょっくら入ってくるかぁ』と言いながら出て行ってしまったのだ。ザンザスを置いて。
 よって今、彼は機嫌が悪い。
 眉間にはきりりと皺が寄っている。

 ―――半年ぶりだぞ

 それなのに、あの男は。涼しい顔をして。

 ―――年寄りの半年と、オレの半年を一緒にすんな

 はっきり言って、やりたくてたまらないのだ。
 半年、顔すらまともに見る事のできなかった相手が目の前にいて、息をして。体温も、身体の匂いさえも感じられるほど、傍にいて。我慢など、できるわけがない。
「畜生……」
 ハンガーにかけられた家光のジャケットを握りしめ、ザンザスは小さく呟く。鼻先を埋めれば、たまらなく欲しかった、これで身体を満たしたかった家光の匂いが鼻をくすぐる。
「いえ、みつ……」
 握りしめたジャケットが、ハンガーから落ちる。畳の上にバサリと音立てて落ちたそれを追うように、ザンザスは腰を落とした。冷えた畳についた手が、のぼせたように熱い。

 ―――駄目だ

 無理だ、これ以上は。
 温泉でのぼせたのではないかと思うほど、頭の奥が熱かった。身体も、心も、熱い。
 待てない、ときつく両目を瞑った、その時。
「あー、いいお湯だった。な、景色良いだろ、ここ」
 呑気な声がふすまを開けて、中へと入って来る。タオルでガシガシと頭を拭きながら、鼻歌まじりでご機嫌な様子だ。
 ザンザスは、弾かれたように顔を上げた。
「ん、どーしたザンザス?……ああ、ジャケッ」
 トが落ちたか、とまで言葉は続かなかった。ぶつかるようにして抱きついて来たザンザスを受け止めるのに、精一杯だったからだ。しがみつく手が、浴衣越し合わさった胸が、肩口に埋められた顔が、熱い。湯から上がりたての家光でさえ、そうと感じるほどに。
「ザンザス?」
「ちくしょ……家光、いえみつ……」
 目元までも染め、ザンザスはただ男の名を呟く。
 どうすればいいかわからないとでも言いたげに、両の手で男の肩を、腕を、背を浴衣越しに必死に撫で回して。もどかしげに家光の浴衣の背をつかみ、ザンザスは男の喉元に吸い付いた。
「待たせやがって、クソ……もう、待てねぇ……」
 いえみつ、と吐息に混ぜて名を呼べば、男はく、とひとつ何かを飲み込み、なだめるように苦笑してみせた。
「おいおい……まだ布団も敷いてないだろ」
「知るかよ」
「せっかく半年ぶりなんだから、もっとこうゆっくりとだな……」
「待てねぇ!」
 叫ぶようにそう言うと、ザンザスは熱っぽく潤んだ瞳で家光を睨み据えた。浴衣越しに重ね合わせた腰は、先ほどからじりじりと動かしているせいで互いに熱を帯び始めている。それを更に家光にすり寄せ、少年はきつい眼差しのままに言いつのる。
「半年だぞ、半年。お前が今目の前にいるのに、肌に触れてるのに、これ以上一秒だって待てねぇ」
 吐息が触れる近さで紡がれる言葉は、その切実さが愛おしかった。
「ザンザス」
「うるせぇ。もう待たない」
「わかった。……わかってる」
 睨みつけるザンザスに、安心させるように微笑みかけ。家光はその唇に軽く口吻ける。
「正直、オレも限界だ」
 囁きは、あやすようでいながらも、確かな欲を滲ませていた。





 布団も敷いていない畳の上、ザンザスは家光を引き倒すようにして身を横たえていく。接吻を繰り返しながら男の浴衣の襟元に手を忍ばせ、もどかしげに肌を辿る。温泉に入った為だろう、潤った家光の肌はてのひらに吸い付くようで、自然、ザンザスの喉が鳴った。
 しっとりと熱い肌、その下でうごめく鍛えられた筋肉。張りのあるそれを指とてのひらで辿り、ザンザスは熱を帯びた吐息をついた。
 あんなにも触れたくてたまらなかった身体が、ここにある。
「家光……」
 名を呼べば、自分でも呆れるほどに響きが甘くて、ザンザスはく、と唇を噛んだ。それに誘われるようにして、家光の舌がザンザスの耳の縁をゆるりと舐めて辿っていく。ただそれだけの事にも、快楽で身体が震えた。
 家光の指が触れる場所が、家光と触れ合う肌のすべてが、いっそ痺れるようだ。
「は……ぁ……」
 唇から洩れる甘い吐息を殺しかねて、ザンザスが頬に朱を上らせる。唇を噛み締めて声を殺そうとする少年に気付き、家光は噛み締められたその唇にゆるく舌を這わせた。
「……っ」
 途端、驚いたようにザンザスの紅い瞳が見開かれる。
「そんな、声殺さなくていいから」
「でも」
「いいから」
 声、聞かせろよ。
 そう耳元で低く囁けば、少年は唇を噛み締める代わりに接吻をねだった。

 ―――ま、邪魔は入らねーだろ

 しつけの行き届いたこの宿の仲居達。客の様子を察する頭と堅い口、そして無用な詮索をしないだけの分別を備えた人間だけが雇われている。そうでなければ、誰が好き好んでこんな山奥の宿にやって来るというのだ。
「ぃえ、みつ……」
「ん」
 離れた唇を寂しがるザンザスをなだめるように、はだけた襟元から忍ばせた指で、肌を辿る。肋を撫で上げてやれば、淡いため息のような声を洩らした。もどかしい程に穏やかな家光の手指に煽られ、熱い身体はますます熱をため込んでいく。
 這わされた指先が胸の尖りを掠めると、ザンザスは息を飲むようにして喉を反らした。鼻にかかった息を洩らすのに瞳を細め、家光はその小さな突起を指で弄る。かすかに声をあげて身をよじる姿は、例えようもなく家光の情欲を煽ってくれた。
 着たままの浴衣の合わせをはだけさせ、勃ち上がった乳首に舌を這わせる。
「……ぁ、ん……っ」
 唇に含んで舌で押しつぶすようにしてやれば、甘ったるい声が小さく洩れた。もう片方には指を這わせ、小さく勃ち上がったそれをゆるりと摘んで転がすように弄り回す。
「ん、ん、……や、ぁ……」
 熱く柔らかな粘膜と指先に撫でられる感触は、背筋を這い下り腰へと重く溜まっていく。甘く焦れったいその刺激に身をよじり、ザンザスは家光の肩口に頼りなく指を立てた。
「や、だ……ぃえみ、つ……」
「うん?」
 好きだろ、ここ。
 唇に突起を挟み込んだままそう囁かれ、その感触に家光の頭を抱え込んで。軽く歯を立てられゆるく吸い上げられれば、ザンザスの喉からは甘く湿った喘ぎしか零れない。歯と舌とに与えられる甘い痛みと快楽は、脳を芯からぐずぐずと蕩けさせていく。
「ぁ、や……っ、そこ、ばっか……」
 舌で先端を嬲りながら、家光が目だけを上げてザンザスを伺う。情欲に潤んだ紅い瞳が、眉根を寄せて家光を見つめていた。
「も……はや、く」
「焦れったいか?」
「待てねぇ……早く、いえみつ」
「……そんなに、欲しい?」
 自分でも、人の悪い笑みになっているだろう自覚はあった。唾液に濡れた乳首を指で弄りながら、鼻先を触れ合わせるようにして瞳をのぞき込み、ザンザスに問いかける。
「……っ、欲しいに、決まってんだろ……!バカヤロウ……ッ」
 問いに返された罵倒は、欲と悦とにまみれながらも、泣きたいように切ない響きを帯びていた。





 焦れるザンザスに急かされ、準備もそこそこにその身体を開かせる。滴るほどに濡らしてはあるが、いつもならばもっと時間をかけて慣らしてやるというのに。
「は、やく」
「わかってる」
 自分でもどうしようもないのか、焦れたザンザスの足が畳の上を滑る軽い音が、濡れた水音と混ざる。切羽詰まった瞳に見つめられれば、家光とて平静を装うのにも限界があった。
「家み……ん、んんっ……」
 腰を掴んで、ことさらにゆっくりと挿れていく。狭い内壁を拡げて入って来た家光に、ザンザスは吐息を逃がしながらたまらないように背を反らした。
 きつい締め付けに、家光が小さくうめく。
 力を抜いて受け入れようとしつつもうまくそれが果たせないザンザスに、なだめるような接吻を落とし。ゆっくりゆっくりと腰を進める。全て収めきる頃には、ザンザスの内壁も家光の熱に馴染んで、引き込むように甘い動きをみせ始めていた。
「全部、か?」
「ん、入った」
 どこか幼げな問いかけに頷いてやれば、満足そうに瞳を蕩かせる。
「動けよ……家光」
「言われなくても」
 触れるだけの接吻を落とし、男はザンザスの脚を抱え上げるようにしてゆるりと腰を使い始めた。熱くぬるつく狭いそこは、家光を包み込んで離したくないかのように締め付ける。
「ん、ふ、ゥ、やっ……ん」
 律動に合わせて厚めの唇から洩れるのは、甘い吐息に混ざった喘ぎ。何かを握りしめたいように指先が畳を引っかくのに気付き、家光はその手を己の肩へと回させた。
「引っかくなら、こっちにしとけ」
「んんっ……あ、ぁッ、ぃえ……」
 浴衣ごと、その肩を抱き締めるようにしてすがりつく。引き寄せた男の首筋に、たまらないように甘く歯を立てて。
「……家光、だ……」
 うっとりとザンザスは呟いた。脈を打つ首筋をゆるく噛み、汗の浮いたその肌を舐める。皮膚の下、流れる血潮の熱さと脈を舌で確かめ、男の匂いを吸い込む。舌に感じる汗の塩気と家光の肌の味に、気が遠くなるほどの悦楽を呼び起こされた。

 ―――家光だ……

 離れていた間の切なさを埋めるように、ザンザスは男の肌に歯を立て味わった。腰から湧き上がる悦さと舌が感じる味とに、蕩かされそうだ。
 揺さぶられる快楽に、とろりとザンザスが酔った時。
 着ていた浴衣のはだけた背中と肩に、痛みが走る。無防備に晒された肌が、畳で擦れてすり傷を作り始めていた。熱い痛みが、ちりちりと響く。
「い、てぇ……」
「うん?やっぱまだ痛い、か?」
 ザンザスの小さな呟きに、家光は我に返ったように腰の動きを止めた。やはりまだ慣らすのが充分ではなかったかと、確かめるようにしてゆるく腰を動かせば、ザンザスはたまらないようにのけぞって細い喉を晒した。無防備なそこに噛み付きたい凶暴な衝動を、家光は唾を飲み込み押さえ込む。
「ち、げぇ……ん、そっちじゃなく、て。背中、いてぇよ……」
「ん?」
 言われてみれば、痛いはずだ。すっかりはだけて片腕の抜けた浴衣では、動く度に背中が畳で擦れるのだろう。板張りの床よりも柔らかいとは言え、目のある畳は下手に擦れるとひどく痛い。
「ああ、スマンな」
 気が付かなくて、と囁いて、家光は左腕を少年の背中と畳の間に差し入れた。まだ細めの骨格の、尖った肩甲骨と背骨が腕に当たるのが心地良い。そんな己を重症だな、と改めて自覚して、家光はひとつ、苦い笑いを浮かべた。
 差し入れたのとは反対側の手で、ザンザスの額を撫でる。黒髪が汗ばんだ額に張り付いているのをかき分けてやれば、少年は心地良さげに紅い瞳を細めた。頬へと指を滑らせて、少年期と青年期の狭間にあるそのラインを辿る。
「年甲斐もなくがっついちまった……痛かったな、ザンザス」
 自覚よりもはるかに切羽詰まっていたらしい己に、笑うしかない。どこまでこの少年に溺れれば気が済むのか。情欲に潤んだ紅い瞳をのぞき込んでも、その底は知れない。
「痛ぇよ、馬鹿……」
 拗ねたような小さな声は、ひどく甘く家光の鼓膜をくすぐった。厚めの唇をかすかに尖らせたザンザスに、軽く音を立てて口吻けて。柔らかなその唇の感触は、いつ口吻けても離しがたいほどに心地良い。軽い接吻に目を細めたザンザスを、身体を繋げたままに家光は抱き起こした。
「なっ……」
 驚く少年に構わず、自分の腰にまたがるように座らせてしまう。
「っ、……ふぅ。最初からこっちにしときゃ良かったな」
 背と腰に添えた手に、ザンザスの身体がびくりと震えるのが、浴衣越し、ひどく生々しく伝わる。
「……っ!ァッ……やべぇ、いえ、み……っ!」
 家光の首にしがみつくようにして身を震わせ、ザンザスはきつく瞳を閉じた。
「うん?どーした……?」
「すげ……深ぇ……ん、ぅ」
 不意打ちだったのと自重とで、思わぬほどに深く男を銜え込んでしまったのだろう。眉間にしわを刻み込み、小さく身を震わせながら、苦痛にも似た快楽にザンザスは耐えている。己の浴衣の襟を握りしめるその手を包み、家光はなだめるようにその額に接吻を落とした。
 いつの間に、こんなに色めいた顔をするようになったのだろう。
 背を撫で下ろしながら、家光は思うともなしに思う。
 額に落とした接吻は、幼い頃から繰り返して来たのと同じものだというのに、含む意味は全く色を変えてしまった。すがるように一途に自分を求める、この子供の手をとったその時から。
「いいか?」
「ん……んっ、ん、あ……っ」
 問いに小さく頷くザンザスにひとつ接吻を与え、ゆるく律動を始める。動きに合わせて甘く零れる喘ぎと粘ついた音が、静かなはずの和室の空気をどんどん重く湿らせていった。

 ―――ザンザス

 愛しい小さな子供は、素直でないくせに一途な瞳をしたままで、艶を増して成長した。己を見つめるその瞳の意味を、こちらへと必死に伸ばされる手を、気付かぬふりでごまかす事もできないほどに。
 ほだされた、などと言うつもりはなかった。そんな言い草は、ザンザスの強い想いの前ではただの卑怯な言い訳だ。伸ばされた手を掴んだのは、家光自身が選んだ事。流されたと言うならば、それは己の感情の奔流に、だ。
 妻子の事は愛している。
 けれど、この少年の事も、また。
 己の狡さを承知の上で、家光はどちらの手を離す事もできなかった。

 ―――裏切り者、だな……

 どちらにとっても。
 最初から、わかりきっている事ではあったけれど。腰から背筋を駆け上る悦楽に脳を蕩かされながら、家光は小さく苦笑した。ザンザスの腰を抱える手に、力がこもる。
「あ、ァ……な、に、考え……てんだっ」
「うん?」
「……んっ……他の事、考え……てんじゃ、ねぇ……っ……」
 情欲に潤んだ紅い瞳が、きつく家光を睨みつける。荒い息をつき、悔しげに唇を噛み締めて、けれど腰を動かすのは止める事ができない。そんなザンザスの姿は、どうしようもなく家光を煽った。
「他の事なんか、考えて……ないぞ」
「……嘘、つけ……」
「お前の事だよ、ザンザス」
「ふざけ……ん……ァ、やっ」
 掴んだ腰骨をぐいと引き寄せ、男は強く腰を突き上げた。不自由な体勢のままに腰を使う家光に揺さぶられ、ザンザスの背がしなる。
「ん、あ、あ、ぁ……ッ」
「……ぅ、く……ん」
 上で腰を揺するザンザスの内に食い締められて、男も小さなうめきのように声を洩らし始める。
「ァ、い、い……すげ、いい……ぃえ、みつっ」
「ん、オレ、も……」
 男の手できつく掴まれている腰骨が、とろけるような悦楽を身体中に伝える。身の内に銜え込んだ男の熱を無意識に締め付けながら、ザンザスは淫猥な笑みを浮かべた。

 ―――たまんねぇ、な……

 快楽をこらえるように眉根を寄せた家光の、顔。滴るような男の色気を滲ませたその表情が、たまらないほどにザンザスの熱を煽った。
「……っぁ、はっ……た、まんねぇ……」
「くっ……ぅ、何、が……」
「その、顔、すげぇ、ソソる……あ、ア、んっ」
 喘ぎに混ぜてとぎれとぎれのその囁きに、家光は一瞬、驚いたように動きを止める。けれど次の瞬間、苦笑ともつかぬ顔付きで片頬を歪め。男は更に激しく腰を使い始めた。
 太腿で挟み込んだ家光の脇腹から腰にかけて、しっかりとついた筋肉が腰を揺する度に弾むように躍動している。浴衣がはだけた肌と触れ合えば、互いの汗でぬるぬると滑った。その感触すら、ザンザスを煽る。
 家光の首にすがるように回した腕も、汗で滑って心許ない。男の浴衣の背をぐしゃぐしゃになるほど握りしめ、ザンザスはもはや言葉もなく腰を動かし続けた。うねる家光の腹筋に、勃ち上がりきって雫を零す自らの熱を擦り付けるように動けば、前と後ろと両方から、身体中を突き抜けるような悦さが広がっていく。その熱を家光の手で扱かれ、脳髄が焼き切れそうな悦楽にザンザスは首をうち振った。
 熱病に冒されたように荒い息と声とを洩らし。二人共に、ただ互いの身体を貪り続ける。伸ばして触れる舌先も、かき抱く腕も、絡む吐息すら、熱い。繋がった粘膜から身体中を走る狂いそうなほどの快楽に、ただ身を任せ。
「ぃ、え……ァ、ァ、ち、くしょ……好き、ぃえみつ……っ」
 突き上げられ揺さぶられ、これ以上ないほど奥に銜え込んだ男が大きさを増すのを食い締めて。
「ザ……ン、ザス」
 呼ばれたその名は、熱く掠れて脳に直接響くようだ。その響きが鼓膜をくすぐったと同時、ザンザスは家光の背をかき抱いたまま、身体中の熱を解放していた。震えて身の内を締め付けるザンザスに追い上げられるように、家光もザンザスの内に欲望を吐き出す。
「……っひ、ゃ、あ、ァ!」
 嫌々をするように首をうち振るザンザスに構わず、その腰を強く引きつけたままに、家光は最後までザンザスを味わい尽くすようにして動き続けた。





 整わぬ息と熱のこもったままの身体で、ザンザスは家光の上に座って身を繋げたままだ。ぼんやりとした意識の端で、髪を撫でる男の手に気付く。その首筋に顔を伏せて息を整えていたザンザスは、ゆっくりと顔を上げた。すぐ近くにある互いの心臓は、未だ早い鼓動を打っている。
 紅い瞳と、穏やかな男の瞳が、絡む。
「……ザンザス」
「ん」
 促すような囁きに、ザンザスは瞳を閉じる。与えられるのは、まぶたへの柔らかな接吻。まぶたに、こめかみに、鼻筋に、頬に。小さく音を立てる優しい接吻が降る。髪を撫でる大きなてのひらとその接吻の感触に、ザンザスは淡い吐息を洩らした。

 ―――畜生、好きだ

 何故こんなに、と思うほどに。
 幼い日から積み重ねられた想いは、色褪せるどころかますます強く激しくつのるばかりだ。悔しさに、唇を噛む。
「……っあ」
 ゆっくりと繋がりを解こうとする家光に気付き、ザンザスは慌てたように男の腰を挟んだままの太腿に力を込めた。
「おい、ザン……」
「嫌だ」
「……って、お前」
「抜くな」
 背に回した腕で家光を抱き締めれば、困ったように男は眉尻を下げた。
「ザンザスぅ……」
「抜くな、よ……離れたくねぇ」
 二人分の汗と精とで、身体中どろどろに汚れているのはわかっていた。時間が経てば経つほど、後始末が大変になる事だって承知の上だ。
 けれど。

 ―――離したくねぇ

 この、身体を。
 片時でも離れがたくて、ザンザスは抱き締めた家光の浴衣の背を握りしめて離そうとしない。無意識の内、拗ねたように唇が尖るのに、家光は小さく笑ってゆるりと口吻けた。
 柔らかく、量感のあるその唇に。
 甘く下唇を食んで、深くは絡めずに唇を離す。離れる唇を、瞳を、切ないように見つめて来るザンザスに、家光は仕方なさげに、けれど愛おしげに苦笑を零し。ひとつ、穏やかにその黒髪を撫でる。
「愛してるよ」
 忍ばせるように耳に滑り込まされた甘い囁きに、ザンザスは家光を抱き締める腕に力を込める。腕に当たる短い髪がちくちくとくすぐったく、未だ引かぬ汗が互いの肌をぺたりと張り合わせた。

 Ti amo.

 響きを変え、囁く声音を変え、時には Ti voglio bene と言葉を変えて、幾度となく与えられた言葉。幼い頃とは意味の変わった、その囁き。艶のある家光の声に蕩かされるような心地で、ザンザスはその首元に顔をすり寄せた。
 この言葉を、日本語で何と発音するのか知っている。
 アイシテイル、だ。
 決して、ザンザスに与えられる事のない、音。
 家光の母国語での愛の言葉。
 それを聞く事ができるのは、おそらくは彼の妻と息子だけ、なのだろう。電話越し、愛しげな声で囁いているのを、ザンザスは幾度も耳にした事がある。
 アイシテル。

 ―――お前の母国語の愛の言葉も欲しいなんて言ったら、一体どんな顔をする?

 困ったように笑うだろうか。それともするりとごまかすのか。
 全ての愛の言葉を、自分だけのものにしたいなどと。口に出さずに済むように、ザンザスは己の唇を噛み締めた。抱き締めた腕に、更に力を込める。
「おいザンザス、苦しいって」
「家光」
「うん?」
「……キス」
「ん」
 ねだれば与えられる甘い接吻に酔いながら、ザンザスは細めの指を家光の短い髪へと差し入れる。指先でまさぐる汗で湿った地肌は、未だ高い温度を保ったままだ。ゆっくりと接吻を解き、額を合わせる。間近で男の瞳をのぞき込み、接吻に濡れたままの柔らかな唇をザンザスはかすかに開いた。
「 Ti amo 」
 家光が囁いたのと同じ言葉を、吐息に混ぜて囁く。紅い瞳の射るような強さとは裏腹に、言葉は淡雪の儚さで二人の唇の間を漂い落ちた。
 滅多に口に出さない、けれどだからこそ強く深く想いの込められたザンザスの囁きに、家光の瞳がかすかに眇められる。その切ない響きは、男の胸の奥、ひどく柔らかな部分を蕩けさせ、同時にひどく痛ませた。
 吐息の重なり合う近さで見つめ合いながら、身体さえも未だ繋げたままで、ザンザスは家光の頭をまさぐる指先にそっと力を込めた。こんなに近くにいてさえも、つのる恋しさに胸が締め付けられる。

「 Solo tu...... 」

 愛してる、に続けて唇からするりと零れ落ちたその言葉を、直接に肌へと伝えたいかのように、ゆっくりと家光の額に口吻ける。

 おまえだけだ。

 どこか痛みを伴ったその囁きを耳にし、家光はくらりと目眩にも似た何かを感じた。身体と心に炎を灯す、どうしようもない情動。
 お前だけだ、などと。
 決して同じ言葉を返せない己を知りながら、それでもこのしなやかな身体を、素直でないくせに一途な心を、抱き締めずにはいられない。
 卑怯な事など、とっくに承知だ。
 飽く事なく頭皮をまさぐり、うなじに首筋にと指を這わせるザンザスの肩口に、家光は顔を埋めた。
「お前ね……」
「……んだよ」
「そんな事、言うんじゃないの」
 いつもは素直じゃないくせに、こんな時ばかりあまりにも素直に、己の心を明け渡すような言葉を。
「……嫌なのかよ」
「嫌なワケないだろー」
「じゃあ、困らせてる、か?」
「困ってなんかいないぞぅ」
 じゃあ何なんだ、と焦れて睨みつけるザンザスに苦笑して。
「……ますます、夢中になるだろーが」
 家光の言葉に一瞬不思議そうな顔をして、その後さっと頬に朱を走らせるザンザスが、可愛くてならない。
「お前がそんな可愛い事言うから、ほら」
 腰をゆるく突き上げるまでもなく、わかっているのだろう。身の内に銜え込んだままの家光の雄が、しっかりと熱を取り戻しつつある事を。
「……ぁ」
「年甲斐もなく、また盛っちゃっただろ」
 片眉を上げ、唇を歪めるようにして囁いてみせる。低く艶のある声が、ザンザスの背筋を痺れさせるほどに色気を含んでいた。
「お前のせいだぞ、ザンザス」
 唇が触れる間近で甘く低く囁けば、紅い瞳が楽しげに細められ、厚く柔らかな唇がゆっくりと開かれる。
「うるせぇぞ」
 悪ぃのかよ、家光。
 小さな悪態は、けれど耳に忍ばせる愛撫以上の意味を持たずに家光の唇に絡めとられた。舌を絡ませじゃれ合いながら、二人、再びゆったりと腰を揺らし始める。
 零れ落ちる甘ったるい喘ぎと衣擦れの音、空気を含んで粘ついた水音が部屋の中に充満し始める。湿った空気は重く、畳の上へゆるゆると降り積もっていくようだった。
 この数日の逢瀬が終われば、また当分は顔も合わせられない事を互いが知っている。離しがたいこの手を唇を解き、それぞれの生活する場へと戻らなければならないのだ。
 だからこそ、今は。
 この宿に居る間だけは、互いが互いのものでいられるのだから。
 家光だけの、ザンザス。
 そして、ザンザスだけ、の。
 家光。

 ―――ここに居る間だけの夢で構わねぇ

 返る答えも、いらない。
 だからせめて、口に出して言わせろと。ザンザスは胸狂おしいほどの痛みを隠し、接吻の合間に再び囁いた。
 お前だけを愛してる、と。
 喘ぎと吐息に紛れたそれが、家光の耳に届いたかどうかは定かでなかったが。熱に浮かされたように、ザンザスは家光の背に腕を回してきつくその身体をかき抱く。安心させるように背を抱き返した力強い腕にひどく満たされ……同時にひどく切なくなりながら。



10/AUG/2007 了




家←ザンでも家+ザンでもなく、家×ザンなわけですが。
エロノルマはこれでクリアできているでしょうか…一応、性行為はしているよ。
何と言うか、お付き合い下さり有難うございました。
勝手に考えていた細かい裏設定として、この二ヶ月後くらいに
ザンザスは家光が自分の十代目継承に反対していると知り、
更にそのひと月後くらい、己の出生の秘密を知る、とかねー、と。
で、互いに顔を合わせる事のないまま『ゆりかご』に突入なのですよ。
可愛さ余って憎さ百倍、裏切られたと思い込んだザンザスは
頑なに家光と顔を合わせないようにすると思います。
そんな、妄想。



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