巳針さんがこんな芭無なイラストをくれました。
貴様の小説読んだせいでこんなイラスト描いたんだから、このシチュで話書け」
どうせなので、
すっごくエロにしようと思いました。
部室らしいので、ロッカーの扉がガッションガッション言うような話を書こうかな!と気合いを入れたのですが、ふと、今書いてる芭唐×無涯の続きのお話にしようと思い立ち。
続きと言っても、ずーっと先の話です。
今みたいに一方通行のみではなくて、少しずつ気持ちが通い始める頃の話。バカラんがちゃんとムガたんに「好き」って言った後の話です。
なもんで、
全然エロじゃなくて普通の話になりました。いやー残念残念!

ムガたんの脳内円グラフ、野球+牛尾(常にワンセット)90%、折り紙8%、その他部員達の心配など2%だった、そのグラフの中に、バカラんが
7%くらい食い込んで行けるように頑張る。私の中の芭無は、そんな感じに進んでいきます。
最終的にムガたんの相手はバカラんだと思っているので。



迷いの蜜





 さわ、と芭唐の指先がうなじの辺りを撫でていく。
 その感触に、不快からではない身震いをひとつして、無涯は小さく身をよじった。
 休日の自主練習の終わった後の部室は妙に薄暗い。窓の外は夕闇が迫り、最早人の声もしなくなった。薄暗く湿った部室に、無涯の立てるかすかな衣擦れの音だけが響いている。
「……御柳」
「何スか?」
「帰る、ぞ」
「はあ?」
 笑い含みに芭唐が問い返す。何言ってんの?と言いたげな声音。楽しくて仕方ないように、黒目がちの瞳が無涯を見つめている。
 誰もいない部室は囁きさえも響くようで、自然と無涯は声を潜める。何より、今自分が置かれている状況を思えば、大声など出したくもない。例え今日は珍しく練習がオフの日曜で、彼ら以外に自主練習に来た部員はほんの一握りだと言っても。全員既に帰った事はわかっているが、誰かが戻って来ないとは限らない。
 身じろぎ、困ったように芭唐を見れば、彼はもうひとつ、悪戯な笑みを浮かべてみせた。
「なーんで帰っちゃうんスか?」
「……もう、遅いだろう」
「えー?まだ早いっしょー」
 ね、屑桐先輩。
 囁くように言葉を落とし、笑みの形のままの唇を無涯の首筋に埋めた。ちゅ、と音を立てて耳の下へと接吻ける。
 その小さな刺激に肩を震わせ、彼は芭唐の肩を押した。
「み、やなぎ」
「ん?何スか?」
「やめろ」
「何でッスか?」
「……」
「ね、何でッスかー?屑桐さん」
 そう問いかける芭唐の声は本当に楽しげだ。伏せた無涯の瞳を覗き込み、返る答えをじっと待つ。期待に満ちた子供の瞳。
 無涯はそれを見つめ返し、ひとつ小さな溜息をついた。
「……困る、からだ」
「何が?」
「オレが」
「何で?」
「……」
「ね、何でッスか?」
 たてつけの悪い長椅子が、無涯の下できしんだ音を立てた。部室のすみに置かれたこの長椅子も、長年酷使され続けたせいで大分ガタが来ている。今年の部の予算でどうにかならないか、そう頭のどこかで考えながら、無涯は見つめてくる瞳から逃れるように視線を伏せた。
 この瞳が怖いと思い始めたのはいつからだったろうか。
 自分をただまっすぐ、食い入るように見つめる、この瞳を。
「屑桐さん」
「……何だ」
「好きですよ」
 ああ、これだ。
 無涯は眉間にしわを刻み、きつく両の瞳を閉じた。
 繰り返し囁かれるこの言葉。
 全てを絡め取ろうとするかのように、耳に流し込まれる甘い毒。
 心のどこかがざわりと騒めく。
「あんたが好きです」
 言い聞かせるようにゆっくりとそう囁き、芭唐は彼の首筋から頬、耳へと指を滑らせていく。その指の感触に陶然としながら、無涯は己の気持ちすらわからぬままにそっと吐息をついた。耳の形をなぞるようにして撫でる芭唐の指先が、額の布にかかった。髪の生え際を撫で上げるようにしながら、その布をずらしてしまう。
「ねえ屑桐さん」
 妙に心細げなその囁きに、無涯は思わず伏せていた瞳を上げた。
 泣き出す寸前のような、痛みをこらえているような表情の芭唐と視線が絡む。さっきまでの楽しげな顔はどこへ行ったのか、まるで道に迷った子供のような顔付きだ。
「……オレの言葉、ちゃんとあんたに伝わってる?」
「言葉……?」
「オレがあんたを好きだって言ってる、その言葉はちゃんとあんたのここに伝わってんの?」
 ここ、と言いながら芭唐は無涯の胸に指を置く。芭唐の手によってはだけられたままのシャツの胸元から、無駄なく鍛え上げられた胸筋がのぞいている。編み上げられた筋肉の隙間、心臓の上の辺りに指を置きながら、芭唐はじっと無涯を見つめた。
 泣きそうな顔のまま、唇だけを笑みの形に歪めて。
「それとも、相変わらずオレの言う事になんか全然興味ない訳ッスか?」
「……わからん」
「わかんねーんだ?」
「わからない」
 呟き、無涯は途方に暮れたようにうつむいた。
 わからないのは、己の感情だ。
 飽きる程繰り返された『好き』という言葉は、肌に触れる芭唐の唇を伝い、無涯の身体中に染み込んでいる。物好きな、という思いはあるが、不思議とそれに不快感はなかった。ただ、凪いでいた己の心にさざ波が立つのが恐ろしいだけだ。
「何であんたが落ち込むんスか?」
 額の布を取り去りながら、芭唐は苦笑と共に無涯の頬に触れる。
「落ち込んでなどいない」
「そんな悲しそうな顔しといて何言ってんの」

 ――悲しそうな顔?それはお前だろう、御柳

 泣きそうな顔をしているのはお前だと思いながら、無涯は頬に触れた手に促されるように、目の前の芭唐の顔を静かに見つめた。熱のこもった瞳が見つめ返して来る。
「……まだ、わかんねーならいーッスよ」
 だってあんた、野球以外の事にはほんと鈍いもんね。
 いささか無礼な物言いをして、芭唐はにしゃりと笑ってみせた。その目で見つめられ、無涯は小さく唇を噛む。

 ――その顔をするな

 訳もなく胸が痛み、彼は無意識に芭唐の顔から目をそらしていた。
 好きだなどと囁きながら、ひたむきな子供のように見つめるな、と。その瞳にさらされ、心が揺り動かされるのを感じ、無涯はそらした瞳を宙に泳がせた。
 他人の感情にも己の感情にも疎く、激しい感情とは無縁と思って過ごして来たというのに。野球と牛尾以外の事には感じないと思い込んでいた情熱や欲望に、小さな火が点ろうとしている。
 繰り返され続けた囁きが、無涯の中で何がしかの形をとり始めていた。

 ――オレの心に入り込むな、御柳

 触れて、重なり、そして忍び込むように。いつの間にか、無涯の心には芭唐の姿が映り込んでいた。本人の自覚のあるなしに関わらず。
「でもさ、大した進歩じゃねースか?」
「……何がだ」
「屑桐さんがさっき悲しそうな顔したの、オレのせいっしょ?」
「そんな訳があるか」
「前だったらさ、オレの為に顔色変えてくれるなんて、有り得なかったッスよね。それこそケガでもしないと」
「……馬鹿は死ね」
 冷たく一言言い放ち、無涯はふて腐れたように横を向いた。古い長椅子がまた、ギシリときしんだ音を立てる。
「ひでーの」
「うるさい」
 返された言葉に笑いながらまたひとつ、ひでーの、と呟いて芭唐は長椅子をまたいで座る。二人分の体重を受けて可哀想なほどにきしんだその音を聞きながら、彼は無涯の膝に手を這わせた。
「好きだよ、屑桐さん」
 溜息のように囁きを落とし、引き結ばれた唇にそっと触れる。一瞬触れてすぐに離れたそれに、名残りを惜しむように無涯はかすかに唇を開いた。
 甘い毒を耳に注ぎ、熱い視線で絡め取り。
 少しずつ侵食してくるこの男は、自分にとって一体どんな意味を持つのだろうかと。
 柄にもなくそんな事を考える。
 開いた無涯の唇に、再び芭唐が触れてきた。唇ではなく舌先で、焦らすように唇のふちを辿る。触れる吐息と酷く淫猥なその感触に耐え切れなくなり、無涯は自分から舌を絡めた。
 濡れた音が合わさる唇の隙間から洩れるのを耳にしながら、彼はいつの間にか馴染んでしまった甘みに眉を寄せる。
 芭唐のキスはいつでも甘い。一日中噛み続けているガムの味が、舌に残っているせいだ。甘ったるい香料の匂い、人工甘味料の嫌味な甘さ。無涯の嫌いな味だ。だが、芭唐に与えられるその味にはもう馴染んで久しい。そして嫌いなはずのその味が、今では心地よくすらある。
 ぴちゃりと音を立てて一度唇が離れ、ゆっくりとした仕草で改めて無涯の唇が覆われた。

 ――まだ、ガムの味がする

 散々に唾液を混ぜ合わせ、唇が痺れるほどキスを繰り返さないと、芭唐の口から甘さは消えない。純粋に彼の体液の味を味わうまでには、ずいぶんと時間がかかるのだ。どこか悔しいような気持ちで、無涯は混ざり合った甘い唾液を飲み込んだ。
「まだ、甘い……」
「ん?オレのキスが甘いって?屑桐さんてば、可愛いッスねー」
「この馬鹿が。お前のガムのせいだ」
「えー?もうガムの味なんか残ってないっしょ。オレにはあんたの舌の味しかしねーけど」
「馬鹿者」
 耳まで赤く染め、いつもの無表情を崩して無涯はにやつく芭唐の顔を睨み付ける。自分の口に馴染んだ味だから、自分ではわからないだけだろう。そう言ってやりたいが、それが何故か酷く恥ずかしく、無涯は黙って目の前のにやけ面を睨み付けた。
「もう、やめろって言わないんスか?」
「……」
「困るって言わねーの?」
「もういい」
 困るのは確かだ。
 己の心を見失う。
 身体中に染み込まされたあの言葉が、自分の何かを変えようとしているのが恐ろしい。
 けれど、今はそんな事を考えるのは面倒だった。
 触れられた場所から、身体が熱を持ち始める。芭唐の唇が離れているのが妙に寂しく、無涯は指を伸ばしてその顔に触れた。触れられた芭唐は、ほんの一瞬意外そうに目を見張り、次いで柔らかに笑み崩れた。
「どーしたんスか?」
「何でもない」
「そ?」
 薄く開かれたままの無涯の唇に小さなキスをして、芭唐は喉元から胸へと唇を這わせていく。さっき指先で触れた心臓の辺りで唇を止め、彼はそこに静かに接吻け囁いた。
「あんたが好きです」
「……御柳」
「早くあんたのここに、オレの言葉が届くようにと思ってさ」
 悪戯げな顔付きで笑い、芭唐はもうひとつ、そこにキスを落とした。指先は既に、無涯の背から腰のあたりをさまよっている。その指先を心地よく思いながら、無涯は己の胸元で動く芭唐の頭を見つめていた。
 もしかすると、もう、届いているのかもしれないと。
 そう、頭のどこかで考えながら。




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