軽めですが性描写あり。15歳未満は閲覧禁止です。



ひなた水




 事の終わった後で、うつぶせたその背中を指先で辿り、綺麗についた筋肉を楽しむのが録は好きだ。ピッチャー特有の、鍛え上げられ引き締まった背筋は、薄い肌の下、指先にひどく心地よい。まっすぐな背骨の両脇に、みっしりと盛り上がったその流れを指で追いながら、録は小さく唇だけで笑った。

 ――これで何回目だっけ

 数え上げるのも馬鹿らしい。半年ほど前から続いている関係だ。部活の性質上、そう度々身体を重ねる事ができる訳でもないが、まあ程々には部屋に連れ込む事には成功している。枯れた年寄りでもあるまいし、野球で欲望を発散なんて事は、はっきり言って現実的じゃない。
 ベッドの上に座り壁に背をもたせかけた状態で、自分の手の下、呼吸の度に上下する背中を見下ろす。さほど日に焼けていない、広い背中。そこに散る幾つかの跡を辿り、録はひとり、唇を歪めた。
 すっかり汗も引いてさらりと乾いたその肌には、朱色の跡が散らされている。さっき、録が散々に腰を使いながら噛みつき、吸い上げ、残してやった跡だ。明日あたりには着替えの時に困るだろうが、そんな事は録の知った事ではない。むしろ、部員全員に見せつけてやればいいとすら思う。
「録、お前、また跡を付けただろう」
 無涯の声が、抑揚少なに録の行為を咎める。相変わらずベッドにうつぶせたまま、録の方を見ようともしない。それが憎らしくて、録はなぞっていた跡へと屈み込み、もう一度吸い上げた。
「……っ、やめないか、録」
「見られて困る相手がいるわけでもなさ気でしょ(-_-#)」
「いいから、やめろ」
 一段低くなった声に満足し、録は派手な音を立てて背中から唇を離した。無涯が身じろぐと、背筋がうねるように動く。その様に、再び腰の辺りに熱が溜まり始めるのを感じ、録は喉を鳴らした。

 ――ゾクゾクするよ。すげぇやらしい、この人

 最初のきっかけはつまらない事だった。
 録は前々から無涯に惚れていて、それをついぽろりと口から零してしまっただけ。それに無涯が『俺を抱きたいのか』と無表情に問いかけて来ただけだ。
 つまらない、雰囲気のかけらもない始まり。
 何の事はない。無涯にとっては、録の性欲を処理してやっているだけの交わりだ。大事な野球部の後輩が困っているようだ、ならば俺が助けてやらねば。どうやら無涯の頭の中ではそういう図式ができているらしいと悟った時は、さすがの録も少しだけ泣いたものだったが。

 ――屑桐さんてホント、野球以外は興味なさ気だもんね

 野球部の為ならば何をするのも厭わない。そして、他人の想いにはどうにも疎い。そんな無涯に惚れてしまったのが運の尽きだと諦めればいいのだろう。だが、こうして身体を繋げていれば、いつか何かが変わるのではないかという淡い期待も、録には捨て切る事ができない。何よりも、想う相手に触れていられる時間は、録にとって至福ですらあったからだ。
 他の部員も幾人か、こうして無涯に触れる事を許されているらしい。あえて、無涯本人には聞かない。見ていれば、大体誰かはわかるからだ。

 ――ムカつくけどさ

 腹を立てたところでどうしようもない。
 小さく舌打ちし、録はうつぶせた身体に再び肌を擦り寄せる。ベッドサイドの時計に目をやり、親が帰って来るまでの時間を素早く計算して、子供っぽい顔に笑みを浮かべた。
「あと二回はイケるかな(^_^)b」
「な……」
 んの話だ、と続けようとした無涯の唇に、指を差し入れて黙らせる。ボールを扱うせいで荒れている指先で、歯列をなぞり舌に触れていく。身体と同じように手も小さい録の指は、無涯に銜えさせてもどこか心許ない。人差し指と中指を使ってぬめる舌を嬲ると、無涯の方からその指に舌を絡み付かせて来た。小さな爪を甘く噛み、絡み付かせた舌を使って指を扱くように舐め上げる。淫猥な音が部屋に響き、録は唇を吊り上げて笑った。
「屑桐さん、やらし気〜(>_<)」
「……っ、ん」
 銜え込んだ指のせいで反論する事もできず、瞳だけをきつく返して寄越す。文句があるのかと言いたげなその目付きにとろけそうな笑みを返し、録はゆっくりと指を唇に出し入れしてみせた。無涯はそれに応えるように、ねっとりと指を吸い上げる。

 ――野球馬鹿なのに、こんなんばっかり巧くてさ……一体どこで覚えたんだか、この人は

 誰に教え込まれたんだかね。
 呆れと嫉妬が半々に胸に渦巻き、録は後ろからぴったりと身体を擦り付けたまま、目の前にある耳に甘く噛みついた。わざとらしく濡れた音を立てながら耳朶を舐めて、熱い息を吹き込むようにその耳に囁きを落とす。
「先輩、すごいイイ顔。これとか撮って皆に送りた気〜(^o^)」
「ん、う……っ」
「これ見たらさ、あのうるさ気な一年とか、さすがにもうちょっかい出さないんじゃないッスか??(^_^)v」
 一年、の言葉に無涯の肩が揺れる。誰の事を言っているのか、わかっているのだろう。無涯にちょっかいを出すような度胸のある一年生など、ひとりしかいない。
「……、くっ」
「ね、ちょっかいかけられてんでしょ?屑桐さん(-_-#)」
 常よりも低い声でそう囁くと、眉をしかめた無涯が、懸命に舌で録の指を口内から押しやろうとする。噛みつけば一発なのに、とぼんやりと考え、録は自嘲気味に笑いを浮かべた。

 ――野球部員の指に、傷なんか付けらんないもんね。この人らしいよ

 結局のところ、無涯が見ているのは『大事な野球部の後輩』としての自分だけだと改めて気付かされ、録はやり切れない思いに片頬を歪める。
 無涯の透明な瞳には、決して録の姿が映り込む事はない。彼の視線はいつだってどこか遠くを見つめたままだ。己の飛ばした紙飛行機の行方を見つめている時のように、ただ静かに遠くを見つめている。
 その視線の向かう先が、過去なのか未来なのかは、録にはまだわからなかったけれど。
 瞳が重なる事がなくとも、ただ、傍らでそれを見つめていたいと切に願って。
 録は、恭しいとも言える仕草で無涯の頬に接吻けた。
「……?」
 口に含ませていた指をそっと抜き取り、もう一度頬に接吻ける。
「どうした、録」
「……なーんでもないッスよ(^_^)」
 反対の手で撫で回していた尻から手を滑らせ、無涯の腰の前へと指を遊ばせる。シーツに押し付けられ息苦しげに頭をもたげるそれに手を絡め、録はぺろりと己の唇を舐めた。
「先輩の方も、もう我慢できな気でしょ?(>_<)」
 気持よくしてあげるから。そう囁き、無涯の唾液でたっぷりと濡れた指先を、背骨を辿り尻の窪みへと潜らせる。無涯が小さく声を上げるのを聞きながら、録はうっとりとその背に接吻を落とした。
 あなたの瞳が何を追っているのか、わかったとしてもきっと尚。
 自分はあなたを見つめ続けずにはいられないでしょう。
 その許しを乞うように、柔らかな接吻を。






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