「虎徹さん!」
大きめの声を出して呼べば、雨の中、虎徹は不意に立ち止まり、首を巡らせ声の主を探す。バーナビーが手を挙げようとする前にその姿に気付き、男はおおらかな笑顔になってこちらへと駆け寄って来た。
「よーお、バニー!おまえさんも雨宿りか?」
「あいにく、降られてしまいまして」
「俺も俺も。やんなっちゃうよなぁ」
ハンチングを脱いで雨を払いそうぼやく虎徹に、今度こそバーナビーは笑ってしまった。呆れた顔を保つのが、今はひどく難しい。
「何であなたはそう変な見栄を張りたがるんです?隠すような事じゃないでしょう。……見てましたよ」
秘密を囁くようにそう告げれば、虎徹は頭を掻いて天を仰いだ。
「ありゃ……見られてたか」
「ええ、しっかり」
ひどく優しい眼差しになっている事には自分でも気付かぬままに、バーナビーは喉奥で笑ってそう返す。
そんなバーナビーを横目に見やり、男は雨を払ったハンチングをぽんと頭に乗せた。言い訳をするように、モゴモゴと口を動かす。
「いや、雨止みそうにないし……こども連れたお母さんじゃ、せめて傘でもないと大変だろお?」
「そうですね、あのお母さん、きっと助かったと思いますよ。……ほんと、虎徹さんは優しいですよね」
「へ?」
バーナビーが素直にそう口にすると、虎徹はきょとんと目を見開き、次いで嬉しそうに笑み崩れた。
「何だよー。おじさん、バニーちゃんに褒められちゃったよ」
「褒めて欲しかったんでしょう?顔に書いてありましたよ」
しれっとそう言ってやれば、んな事ねぇよ!とオーバーアクションに騒ぎ立てる。それを見ながら、バーナビーは胸に広がる柔らかな感情のままにゆるやかな笑みを浮かべた。
それを目にした虎徹が、納得いかなげに口の中で唸る。
「……ったく、小生意気なとこは変わんねぇんだからよ……!」
「何か言いました?」
「いんや、なーんも!おら、バニー!いつまでもこんなとこで油売ってねぇでさっさと会社行くぞ!」
「って、まだ雨が……」
慌てた声を出すバーナビーを見やり、虎徹はニヤリと唇の片端を上げて片目を眇め、人の悪い笑みを作ってみせた。
「こんな雨くらいでガタガタ言うなよ、ヒーロー」
「……っ、ガタガタなんて言ってませんよ!」
「よっしゃ、そんじゃ会社まで競争な!よーい、ドンッ!」
ひとりで勝手にそう決めて、虎徹は勝手にスタートを切った。雨の降る中に、水を跳ね上げながら飛び出していく。
「ちょ……っと、虎徹さん!何勝手な事……」
「あ、負けた方が昼飯オゴリな!じゃっ!お先!」
これまた勝手なルールを作り、虎徹は片手を軽く振り走り去る。おとなげの欠片もない。
そんな虎徹の後ろ姿に呆然としたのは一瞬で。小さく舌打ちをして、バーナビーもまた、雨の中へと飛び出した。この際、濡れるだのなんだのと気にしてはいられない。
――……ったく、本当にもう!あの人は!
心の中で悪態をつきながらも、走りながら顔が笑ってしまう自分をバーナビーは止める事もできない。
……恋を、していた。
自分でも呆れるような強さで、あの年上の相棒に。
気持ちを自覚したのは、ジェイク戦の少し前の事だった。自覚したのとほとんど同時に、勢いのままに想いを告げて。縋るようにしてその心を求めるバーナビーの想いを、虎徹は受け入れてくれたのだ。欲しいだけ持って行けと囁いた時の虎徹の微笑みを、バーナビーは今も忘れる事ができない。
冬に始まったこの関係は、春を迎えた今も幸いな事に順調だ。
ジェイクを倒し心の重荷から解き放たれたバーナビーにとって、まさに今は我が世の春と言えた。
初めての恋、公私共に支え合えるパートナー、ヒーロー業も順風満帆。
何もかもがうまくいっている。
人生って素晴らしい、などと呟いてしまうほどに、今のバーナビーは充実していた。
背中を預けられる相棒であり、この世で一番愛おしい恋人であり、どうしてもかなわないと思える相手。
そんなかえがえのない人と、共にいる事ができて。
……愛情を、惜しみなく与えられて。
幸せでないはずがなかった。
だからこそ、バーナビーは思う。ジェイクとのセブンマッチ直前にあったような、あんな諍いは二度としたくないと。
虎徹にも確かに悪いところはあったものの、自分を案じてくれての行動だったのだと、今となってはバーナビーにもわかる。意地を張り続けた己の幼さを思うと、時折羞恥に頬が染まった。
あんな風にすれ違ったり、虎徹を傷つけるような事は、もう繰り返したくはない。
虎徹が自分を支え、助けてくれるように。自分もまた、虎徹を支えられるような存在になりたいと、心の底からバーナビーは思う。
今はまだ、そこまで成長できていない自覚があった。自覚ができる程度には、おとなになったつもりだ。
相棒として、恋人として、ひとりの男として。虎徹に認められるようになりたい、と。それが今のバーナビーの密かな願いだった。
====この先、R-18部分のサンプルです。ご注意下さい。====
「……ん、」
「虎徹さん……今日は、挿れても?」
やわやわと焦れったいような刺激を与えながら、虎徹の耳に唇を触れさせて問う。吐息を忍ばせ舌で耳殻を辿りながら切ないような声でねだれば、そんなバーナビーの襟足に指を差し入れながら男は幾度も頷いてみせた。
襟足からうなじにかけてを指でくすぐり、虎徹はバーナビーの耳元に唇を寄せ返す。
「挿れていい……けどその前に、コッチ、な……」
熱い吐息をバーナビーの耳に絡め、秘密を囁くように耳孔を舌で犯しながら、虎徹は青年の身体に指を遊ばせた。見事に盛り上がった胸筋、引き絞られた腹、そして腰骨に引っかかった下着の縁に指を掛ける。
くい、と下着を指で引っ張れば、窮屈だったのだろう、既に反り返るほどに育った昴りが飛び出すようにして顔をのぞかせた。
「……っ、虎徹さ、ん……」
「もうこんな、かよ……」
下着の中は手を入れただけでも熱いほどで、勃ち上がったその先端は既にとろりと濡れていた。
下着を引き下ろして布地から解放してやれば、バーナビーが心地良さげに甘い吐息をつく。
「あなたのせいじゃないですか……」
意地悪、と呟くように言い、青年は手の中の虎徹のものを握る手を強める。汗ばんだ熱い掌の感触に、虎徹の腰もいやらしくうねった。
「ァ……はは、そう。俺の、せい」
だから、責任とってやるよ……。
秘密めいた囁きは過ぎる甘さと淫らさで、バーナビーは我知らず、音立てて唾液を飲み込んだ。密着している身体が、更に熱を上げじわりと汗ばむ。
バーナビーの上体を重ねた枕にもたれさせ、その足の間に座った虎徹は、ゆっくりとその身体を指先でなぞる。割れた腹筋をなぞりながら形の良いへそをくすぐり、上目遣いでちろりとバーナビーを見やる。
情欲に潤んだ碧の瞳が、食い入るような強さで虎徹を見つめている。
その碧に目元だけで笑いかけ、男は勃ち上がったバーナビーのものをやんわりと掌で包み込んだ。確かめるように全体に手を這わせ、根元を支えるようにして指を絡みつかせる。ひどく、熱い。
その熱に引き寄せられるようにして、虎徹は先端をぬろりと舐める。舌で触れても熱いほどのそれを、熱を馴染ませるようにして丁寧に舐め回して。
ちゅ、と口吻けを落とす。
「……あっちぃ……」
はぁ、と吐息を零せば、その息の刺激にもバーナビーの雄は反応し、虎徹の手の内でひくひくと震えた。その様がいじらしいようで、男は口を開いてくびれのあたりまでを含んでやる。
「んっ……」
頭上で、切なげな声が洩れる。
それを聞きながら、虎徹は口内に導き入れた昴りに舌を這わせる。味蕾でこそげるようにしながらくびれに舌を巻き付かせると、バーナビーの腰が跳ねた。
「……ッハ、ぁ……こ、てつ、さん」
荒い息をしながら名を呼ぶバーナビーに、ちらり、視線を向ける。
「て、を……」
そうねだられて、虎徹は伸ばされたバーナビーの右手に、己の左手を与えた。指と指とを絡めて繋がれ、ぎゅっと握り締められる。
不便だが、致し方ない。行為の最中も、バーナビーはこうして手を繋ぎたがる事が多い。
二十年の間に失った人肌の温もりをどこか、こんな形で求めているのかも知れないと、そう気付いてしまったら。断る事など、虎徹にはできはしなかった。
左手をバーナビーに与えたままに、右手と唇だけで昴りを追い上げていく。
脈を打つそれを扱き上げ、浮いた血管と裏側の筋とを舌でねぶる。ぐちぐちと音を立てて先端のくびれを揉み込んでやれば、バーナビーは腰を跳ねさせて昴りを一層膨らませた。
先端を弄り回す手を止めぬままに、袋を甘く食む。舌で舐め回し口に含んでやれば、青年は切なげな息と喘ぎを零しながらもどかしげに腰を振った。
「ぁ、ぁ……こて、つ、さ……」
「んぅ、ふ……ん、ン、ンッ……」
ひくひくと震えて先走りを零し続けるそれは、もう張り詰めて限界が近いのだろう。虎徹の名を呼ぶ声が、上擦る響きを帯びている。
出していいぞと言う代わりに、男は垂れ落ちてくる雫を舐め上げて、その昴りを口に含み直した。先端を口蓋に擦りつけるようにしながら、上下に出し入れを始める。
根元を手で擦りながらのその行為に、バーナビーは掠れた喘ぎを零した。無意識に、腰が動く。
くびれを唇で扱くようにしながら追い上げられ、バーナビーはもう限界だった。繋いだ虎徹の手を、縋るように握り締めて。
「う、ぁ、ダメ、も、ぁ、あ!」
追い上げる動きに引きずられるように、バーナビーは腰を震わせて欲望を解放した。虎徹の口内で膨れ上がった雄が、びくびくと暴れながら熱い粘液をまき散らす。
「ん、んん……っ!」
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